カンニング

 頭が悪く、なおかつへそ曲がりな人間の雑感です。
 なお、件の受験生をかばう意図はありませんし、京大や警察の対応をとやかく言う気もありません。ただ、私の目から見て純粋に不思議に思ったことを書きつけていきます。
 一種の思考実験です。お暇な方だけお付き合いくださいw

  
 カンニングは褒められたことではありません。理由は簡単で、ルール違反だからです。すべての受験者が同じ条件で点数を競うことによって成り立ついわば“試合”において、カンニングするということは、サッカーの試合で手を使うことと同じような類のルール違反になります。だからバレた時点でペナルティを受けます。今回のカンニング事件の場合、入学選考対象からの除外ということになるでしょう。
 ここまでは、まったく異存がないです。私がこの人と同時に試験を受けてる身だったら、「カンニングバレてざまぁwwwそううまく行くと思うなよ」ぐらいは思うでしょうね(;^_^A おそらく他の受験生も遠からずでしょう。
 
 ただ、ここで、受験という“試合”で反則行為をしたことによって刑事罰を受けるのが果たして本当に妥当なのかどうか。今回の罪状は「偽計業務妨害」ですってね。ウィキペディアによると「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の業務を妨害すること」とあります。
 ところで、このことをサッカーの試合に当てはめると、こういうことになります。「手を使うという“ズル”をすることによって自チームに有利に試合を運び、ゲームの公正性を損ねようとし、それに対する対応で試合主催団体の本来の業務を著しく妨害した」という理由で、主催団体がその選手を「偽計業務妨害」で訴える。……ちょっとおかしい感じがします。
 ハンドリング程度のルール違反と、大学入試でのカンニングとでは重みが違うんだ、ということなら、派手な接触プレイだとどうでしょう。「故意に接触プレイを行い、相手チームの選手に怪我を負わせた」……この場合だと、本来の業務が著しく妨害されたとかいう問題より前に、傷害罪で立件されそうな気がします。でも、これも実際にはあり得ないですよね?
 なぜあり得ないかというと、サッカーの試合中に起こった出来事にいちいち警察が介入するのでは非合理的だからだと思います。ラフプレーなんて、故意でなくてもいくらでも起こりうることで、しかも、故意であると立証するのはとても難しいです。こういったことに傷害罪が適用されてしまうのでは、選手が萎縮して試合が成り立たなくなりそうです。
 ……いや、そもそも、そういう出来事にあたって試合中の選手に適切な処分を与えるために審判がいるわけなので、ピッチの中で起こったことに警察がしゃしゃり出るのはナンセンス、とおそらく誰もが思うんじゃないでしょうか。少なくとも私は思います。
 私の大好きな野球漫画「おおきく振りかぶって」で喩えるならば、美丞大狭山高の倉田捕手は、西浦と対戦するまでの様々な過失を装ったラフプレーが明るみに出た場合、傷害罪に問われるのかということです。私の感覚だと、それはないように思います。(この場合指示したのは仲沢コーチですけど、では彼に傷害教唆罪が適用されるでしょうか? こちらはちょっと分かりませんが…)
 
 ここで言いたいのは、「だから今回のカンニング事件で偽計業務妨害なんていう刑事罰まで適用されてしまうのは行きすぎだ」ということではないんです。(いえ、その意見自体には反対しませんが)
 スポーツならばプロの国際レベルの試合でもナンセンスなのに、大学入試程度の競争(と敢えて言います)において、おそらく世間の大半が「逮捕されて妥当だ」と思っている。ということは、ワールドカップにすら無いような特別な何かを入試に対して感じている人が多い、ということになります。
 大抵の人にとって、ワールドカップよりも入試のほうが身近です。ならば尚更、ワールドカップのほうに夢や理想を重ねて、クリーンであるべきと考える人が多そうじゃないですか?
 大学卒業という学歴が必ずしも社会人としてのスキルに繋がるとは限らないことはみんな知ってます。現在の大学入試というのは、その受験生の学力の全てを正確に測る手段としては、相当欠陥があります。それを踏まえた上で、一般的に学力と呼ばれる能力のうちの、ごく限られた分野を競うレース。言ってしまえば、その程度のものです。受験に泣かされた人は多いでしょう。努力と成果が直結するとは限らないことを痛切に体感する機会だったりもします。
 それなのに、なぜ、入試はそこまで「特別」なんだろう?
 これって多分理屈じゃないんだと思います。この理屈じゃない部分に、私はものすごく興味があります。不謹慎ですみません(;^_^A
 
 また、大学の自治、というのがあります。大学内で起こった問題は基本的に大学内で処理するものです。おそらく、これが卒論まるごとネット記事からのコピペだったことが発覚した、という事案だったとしても、逮捕にまでは至らないと思います。卒論を書く学生ならば間違いなく成人しているにもかかわらず、今回の19歳青年を偽計業務妨害の疑いで逮捕したようには、警察は動かないでしょう。
 そもそも今回警察が動いたのは、「漏れるはずのない入試問題がネット上に漏洩していた」からであり、その漏洩元を調べるためには警察の権限が必要だったからでしょう。当初京大が警察に依頼した要件は「漏洩元の捜査」であったはずです。それに比べて、卒論のコピペ(=カンニング)の犯人を突き止めるのに警察に動いてもらう必要はありませんから。
 であれば、京大は犯人が突き止められた時点で被害届を取り下げ、当該の受験生を失格にするに留める、という選択もあったと思います。けれどそうしなかった。
 卒論であっても、卒業のかかった単位認定試験であっても、まず間違い無く大学はカンニングした学生を偽計業務妨害の罪に問うことはないだろうし、そもそもそんなことのために警察は動かないんじゃないかと思います。大学に入学したというのは“資格”としては成立せず、卒業して初めて“大卒という資格”として認められるというのに、卒業よりも入学の要件のほうに厳格さを追求しているのです。
 
 スポーツの国際試合にも無く、大学の卒論にも無く、けれども入試にはあると思われている、その“特別な何か”って、なんなんだろう。私はそれがとても気になります。
 

コメント

  1. 櫻井水都 より:

     自分で補足。
     この件で「現代社会において求められるのはあらゆる手段を使って解答にありつくスキルだから、こういった能力に優れたこの受験生を潰すべきではない」という意見をネットで見かけたけれど、これは賛成できません。現代社会のしくみがそうであれ、受験というレースがそういうルールで行われてない以上、この受験生のやったことは単なる「不正行為」です。「違法行為」であるかどうかは解釈によるでしょうが。
     あと、大学や試験官の監督不行き届きを責めるのもあまり実りがないかと…。
     再発防止のために何をすべきか、という話になると、必ず「ネットリテラシーの教育」とか「携帯電話の使い方を指導する」とかいうことが言われて、何かにつけて教育の問題に持って行こうとする人が多いけれど、個人的にはこれも相当ナンセンスだと思ってます。
     ネットが生活にこれだけ浸透していて、携帯電話を今更なくすこともできない以上、携帯で悪いことができないようにするのが一番根本的な解決方法じゃないですかね?
     今後試験会場は電波遮断。例の受験生は入学取り消し、来年まっとうに頑張れ。以上。で終わりなような気がします。