もはや今となっては何でそんな話になったのか忘れたんですが、ダンナのタダッチ男爵と、車の中で“とっつあん坊や”の指す意味について、ちょっとした論争になりました。
私は今の今まで、とっつあん坊やとは“考え方の青臭いオッサン”のことを指すんだと信じて疑ってなかった(“オッサンくさい子供”という意味や“童顔のオッサン”というカンジの意味で使っている例があるのは知ってましたけど、それらは誤用だと信じて疑ってなかった)んですね。でも、男爵は“(例えばえなりかずきのような/笑)オッサンくさい子供”という意味じゃないかと言う。
えーっソレはないでしょ、と私は言い張るわけですが、なんせ「信じて疑ってなかった」わけなので、辞書に当たってみたこともなかったのですね。対して、男爵の理屈はいかにも筋が通ってるのです。いわく、「“ネズミ花火”は、花火なのであってネズミじゃないじゃんか」。
……うん、確かに。
思うに、日本語の法則として、名詞がふたつ組み合わさって新しい言葉ができるとき、前に来る名詞が後ろの名詞を修飾しているというパターンが一般的なんですね。
“ネズミ花火”は、“ネズミのような(動き方をする)花火”。
同じように、“せんべい蒲団”は、“せんべいのような(ペッタンコな)蒲団”ですね。“雪ダルマ”は、“雪で作ったダルマ”。要するに、せんべい蒲団は蒲団なのであり、雪ダルマはダルマなわけです。
こんな例もあります。“産業道路”は、要するに“道路”。ひっくり返して“道路産業”とすると、それはたぶん、地域振興をかけて一所懸命、みたいなノリの、あくまで“産業”の意味を持つことになるわけですね。
その論理でいくと、“とっつあん坊や”という言葉は、“とっつあん”が“坊や”を修飾している、という関係が成り立つと考えるのがふつうなんです。つまり、“オッサンくさい子供”。実際のところは、とっつあん坊やはあくまで子供なんだという解釈のほうが、確かにしっくりくる。
で、結論から言うと、“とっつあん坊や”の意味は私の思ってたほうでおおよそ正しいようです。
広辞苑によると「一人前の年齢に達し,見かけは大人だが,思慮分別は幼い男」とのこと。“坊やのようなとっつあん”というカンジの修飾関係(もしくは、“とっつあんなんだけど坊や”という修飾関係)が成り立ってる言葉ということになるんですね。
しかし、これは日本語の一般的な法則と比べてちょっと異端だと。
ここで、タダッチ男爵と私は脳ミソ振りしぼって考えるわけです。後ろの名詞が前の名詞を修飾している(もしくは、前の名詞と後ろの名詞が逆接関係でつながっている)言葉は、はたして他に無いものか?
そうしたら、いくつか出てきたことは出てきました。
“妖怪人間”というのはどうだ?(笑)
彼らは妖怪です。「早くニンゲンになりたい」と言ってます。いかに、ヘタな人間よりずっと美しいココロを持っていたとしても、彼らは現実として妖怪です。この言葉の中には、“妖怪だが、人間のようだ”、もしくは“人間のような妖怪”という修飾関係が成立しているわけですよね。
しかし、この場合、こうも言えると思いませんか?
日本語の一般法則的に、後ろにくる名詞のほうが、実体──“要するにそれは何ものであるのか”ということ──を示している。すると、“妖怪人間”の場合、むしろ彼らの実体は人間なんだとも言えませんかね?
姿は妖怪であり、心は人間。しかし強いて言うなら、彼らは本当の人間よりもはるかに“人間”なんだと。このアニメのテーマを考えれば、そういうことになりますね。
彼らが人間なのか妖怪なのか、について考えることは、翻って、(私たち)人間はどうあるべきなのか、について考えることにつながります。ベムたちの実体がどちらであるのか解釈が分かれるのは、製作陣としてはむしろ望むところだったかもしれないわけで。
……っと、ちょっと待て。いつの間にか、『妖怪人間ベム』について熱く語る寝言になってしまった(笑)
話戻します。つまり、“とっつあん坊や”という言葉も、こんなカンジで誰かが物語のために作り出したのが最初なんだとかいうことなら、納得できる話になるんだよなぁということを言いたかったのでした。
“妖怪人間”の例と同じように考えるなら、“とっつあん坊や”という言葉も、実年齢を実体とするのか、精神年齢を実体とするのかで解釈は揺れるじゃないですか。通常の日本語感覚だと、「実体は?」と訊かれたら実年齢を指しそうなものですが、この語順で広辞苑どおりの意味だとすると、むしろ精神年齢のほうに焦点が当たってるって話になる。
だから、これが何かのタイトルだっていうのなら、効果的だと思うんです。引っかかりがあるってことは、記憶に残りやすいってことだから。
……“とっつあん坊や”ってタイトルの、何か……? 聞いたことないなぁ。うーん、たとえば、ラジオとか雑誌とかのコーナー名なんてどうでしょう?『アナタもワタシもとっつあん坊や!』(笑)なんてコーナーがあって、オトナゲない話をリスナーや読者から募るの。
言っときますが、なんもウラとってないですよ。すべて妄想です。ひととおりググってはみたんですけど、この言葉の成立過程にまで言及してるページが見当たらなくて…
いや、何て言うかですね、元・中学校教員養成課程国語科専攻生の血が騒ぐんですよ!(笑)
国語大辞典とかに当たってみれば、初出例載ってますかねぇ? それとも、国語大辞典ほどの由緒正しい辞典には、“とっつあん坊や”なんてトホホな言葉は載ってないとか? 今度、図書館にでも行ってみようかなぁ。
(あ、でも、初出例を知ってるという方がもしいたら書き込み大歓迎!)
コメント
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