これじゃまるで戦前の検閲と同じです

 
 明日かあさってにでも、もう一度きちんと文章を見直します。
 でもひとまず、これだけは。

 既に憲法上グレーゾーンじゃないかとささやかれてる、東京都の青少年育成条例ですが、その改正案というのが持ち上がっています。
 これです↓
 ■漫画・アニメの「非実在青少年」も対象に 東京都の青少年育成条例改正案
  http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1003/09/news103.html

 まとめサイトも立ち上がっています↓
 ■東京都青少年健全育成条例改正問題のまとめサイト
  http://mitb.bufsiz.jp/
 ■「非実在青少年」規制問題・対策まとめ
  http://hijituzai.ehoh.net/

 反対を表明している人々↓
 ■デイキャッチャーズ・ボイス 山田五郎 緊急提言!都の「青少年育成条例」改正案にモノ申す!
 (今月18日までしか聞けないようです。「一番おかしいのは、青少年が同世代の青少年にムラムラするのは不健全だ、と言っていること」 この視点は新しい、必聴です)
  http://www.tbs.co.jp/radio/dc/thu/index-j.htm
 ■an Unfinished Memory
  http://booksinflood.tumblr.com/post/438287162
 ■小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 「非実在青少年」という概念は、アダルトっぽくないよね。
  http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20100311/213285/
 ■弁護士山口貴士大いに語る 【表現規制反対!】東京都青少年の健全な育成に関する条例の改正案【問題多すぎ!】
  http://yama-ben.cocolog-nifty.com/ooinikataru/2010/03/post-a2d1.html

 
 以上のサイト、加えてそのリンク先などにひととおり目を通した上で、私の意見を書かせていただきます。

 

 要するに、「漫画やアニメなどで、外見的特徴などが18歳未満であると認識できるもの(非実在青少年)が性的対象として扱われている作品を、不健全図書とし規制する」という趣旨のようです。
 都知事と、この条例改正案を提案した「東京都青少年問題協議会」、一体何を考えているんでしょう。この改正案の意味するところ、行き着く先が分かってるんでしょうか。

 諮問機関であるこの「東京都青少年問題協議会」という団体は、構成員が少々偏っているようでして、キリスト教系の団体「ECPAT」や、そもそも規制賛成派の知識人、警察出向者が多数を占めています。そして、「まず規制ありき」という結論を掲げて動いているように見えます。
 青少年をいわゆる「有害コンテンツ」から守ることが目的であるならば、ゾーニング・レーティングの徹底でそれは果たされるはずです。現在既に、ゲームソフトはほぼすべて「CERO」マークがついています。A~D、Zの値で、扱っている内容の過激さを示しており、たとえば『FINAL FANTASY XIII』などは「CERO B」、つまり12歳以上対象となっています。
 このように、コンテンツを作る側では既に、「青少年を有害コンテンツから守る」ための取り組みがなされています。こうしたレーティングを漫画やアニメにも適用すれば、子どもがうっかり過激なものに触れてしまう危険性は避けられると思います。戦前の検閲を彷彿とさせる規制案などを話し合うぐらいだったら、その労力と時間をそういったことに当てればいいんです。

 親にそういった知識を伝えることも大事です。
 既に、子どもが使ってる携帯電話の機能を理解できてない大人、多くないですか? インターネットの情報リテラシーについてだって、どこかで聞きかじってきた子どもに訊かれてちゃんと答えられる人は少ないんじゃないかと思います。(かくいう私もあんまり自信はないですけど…)
 大人だったら、自分の読みたいものを読みたいように読めばいいんです。嫌なものは見なきゃいいです。
 でも、子どもではそうはいきませんよね。
 そんな子どもの代わりに、読むもの・読まないものを判断するのは本来親の役目です。家庭の躾の範疇に公権力が介入するのは越権行為です。
 溢れかえる情報の中から、親が自分の子どもに見せたいもの・見せたくないものを選ぶためのシステムを整え、伝える。
 そうすれば、わざわざ「有害なもの」を根こそぎ取り払ってしまうこと無しに、子どもを守ることができます。見たい大人は自由に見られる。見たくない人は見ない権利が保障される。よほど合理的です。

 幼児~思春期後期の未成年を「青少年」と一括りに論じるのも問題です。
 (青少年、という言葉の中に含まれる「青年」って、25歳程度の成人も指すから、強いて言うなら「少年」としたいところですが…それは置いておいて)
 見せていいもの・いけないものは、子どもの発達段階によって変わってきます。当然成長すればするほど、自分で選ぶ幅を広げてやることが必要になります。
 そして大人になって、すべてが自己責任になるまでの間に、現実と架空の区別をつけ、自己責任において情報を選び取れる力を授けるんです。「とにかく規制!」では、子どもに考える力が備わりません。

 そもそも、改正前の青少年育成条例からして、よく読むと「青少年が性的感情や、死、犯罪などに対する興味を抱くのは不健全」という考え方なんですね…。
 私はこの点にも疑問を抱いてます。(山田五郎氏に賛成です)
 中学や高校の頃って、正直、箸が転がってもムラムラくるようなのが「健全」じゃないんですかね?
 死ぬことや生きること、犯罪、暴力、世間の常識、そういうことについて悶々と考えてしまうのが青春じゃないですか? 皆さん、違います?

 もちろん、児童ポルノはあってはいけないものです。それは、実在の子どもが性被害に遭って傷つくからです。「児童ポルノ法」の制定目的もここにあります。
 (現在では、「児童ポルノの被害者である子供の人権を守る」 から、「児童に対して性的搾取を行うような風潮や意識を醸造している児童ポルノそのものを消し去ろう」に論点がすり替えられてしまってるようですが…)
 今回の青少年育成条例改正案は、そういった児童ポルノの問題と、「青少年を健全に育成する」ことを同じ俎上に乗せているように見えるので、違和感があります。「児童ポルノの根絶に向けた気運の醸成」のために「青少年育成条例」を改正する、という主張ですが、それぞれの法律の主旨を理解していないか、意図的に曲げて解釈しているように思えます。
 まして、今回規制の対象になっている「マンガ・アニメ」は、実際の児童が性被害を受けることはありません。なので児童ポルノの問題とは完全に別件のはずです。
 もちろん、「猥褻なマンガやアニメを見ること」と「猥褻行為をはたらくこと」との間に直接の因果関係が認められないのは、言うまでもありません。

 レイティング・ゾーニングによるいわゆる「有害コンテンツ」の住み分け。これで済むはずのものを、わざわざ一斉規制によって、少数派のひそやかな趣好まで弾圧する必然性がありません。
 「非実在青少年」という概念自体が、曖昧すぎて規制の根拠とするには危険すぎます。公権力がいくらでも恣意的に解釈できるような基準でもって、規制という強硬手段に訴えることを可能とする条例など、絶対に認められません。焚書でもする気でしょうか。
 これは東京都の条例であり、国の法律ではありませんが、出版社もテレビ局も大多数が東京にあることを考えれば、影響は全国に及びます。
 今この段階で、どこのテレビでもこの問題を取り扱っていないのが不思議なほどです。

 こうして長々と文草を書いていたのが、「なんだ結局取り越し苦労だったね」と笑い話になることを心から願ってます。