【振りサイト再録】“信頼”、それは、弱みも見せ合うということ。(10,11月号/第48,49回感想)

すみません、えらく間が空きました。
私の職場、今度民営化する某公社なので、てんやわんやでした。しかもそんな時期に転勤ですよ! ってどっかで書いたっけ? うーんもう覚えてない。確かめるのも億劫だわ~(オイ)
でも、今月号はなんか書かなきゃダメだろという気がしたので、書きます。例によってまたダラ長い感想になっちゃったらゴメンナサイ。
 

 
11月号、神妙な面持ちのキャッチャー田島様で始まっています。
急かす審判に、モモカンと二人してにこやかに応えつつ(笑)ボソボソと小声で交わされるやりとりは、やっぱり田島とはいえ鋼の神経の持ち主ではないんだと感じさせます。不安だよね、フツーに。

とはいえ、グラウンドにいったん出ればもうそこは戦場。
外野までびっくりさせるようなドデカイ声で「ボールバックー!!」。そのままの勢いでマウンドの三橋に駆け寄り、渾身のラリアート(笑)
田島らしい、これはムードメイキングだよね、きっと。この子はあんまりそんな風に意識して振る舞ってるわけじゃないのかもしれないけど、身体で知ってる。
ヤバい時にこそ、ムードがいかに大切かっていうことを。

でも、三橋には本音を吐露するんですね。
「オレのがビビッてっか」「捕手として自信マンマンとは言えないや」「がんばっから よろしくな!」
……なんか、ものすごいキュンとしましたよ、ワタシ。
ある意味、先月号のあの、阿部のケガに対してテキパキ指示してる田島よりか、このシーンの田島のほうがより“カッコイイ”と思っちゃったかもしれない。
自分の弱さを、隠すこともなく、ひけらかすこともなく、さらりと見せられるっていうのは、強さですよね。
で、それに対して、「たっ 田島君は オレを 頼ってくれ!」と三橋が!
頼ってくれって言った! この子が! ダメピーだダメピーだって自分のこと罵ってた、この子が!
うわあああんっ!(泣叫)

…うん、確かにね。フツーに考えて、田島がいくらすごい素材だって言ったって、しょせんは控え捕手。それに対して、三橋は正真正銘の西浦のエース。
この局面で、田島が三橋を頼るのは当然なんだろう。
でも、あえて言いたい。
“信頼する”って、“対等に接する”って、こういうことなんだよ、阿部?

田島は控え捕手だけど、阿部は正捕手なわけで、「捕手として自信マンマンとは言えない」なんて言ってるわけにはいかないんだろう。確かに。
でも、それを言うなら、三橋だって同じ立場なんです。
お互い、あんまりおいそれと怖い~とか不安だ~とか言ってらんない立場で。でも、誰だってフツーに不安に心が震えるときってあるじゃないですか。
そんなときに、「不安だ」という気持ちを打ち明け合える関係でいなきゃいけないんだと思う。チームメイトっていうのは。それでいて、もたれ合うんじゃなくて、支え合う関係でなきゃいけないんだと思う。

最初のころの三橋だったら、自分に対してひとかけらの自信も持ててなかったから、誰かを支えるどころじゃ到底なかった。
でも、誰かに必要とされたり、頼られたりすることを、うれしいと感じる気持ちはあるんだよね。眠ってただけで。
自分だけが不安なんじゃないのだと気づいた三橋は、初めて、みんなと自分が“対等”なんだと思えたのかもしれない(ま、ものすごいハテナマークつきで、かもしれないけど…)

三橋と阿部の出会いは、なんたって例の「オレがお前を ホントのエースにしてやる」で始まったわけで(笑)
で、そのとおりに三橋はザクザクとアウトをとり、エースになった。それは阿部君のリードがあるからだ、阿部君はすごい、絶対の存在だ、となっていったのも、ごく自然な流れですよね。
阿部のほうも、自分の力で投手を勝たせたいと思う気持ちが、中学校時代には榛名相手に空回りしまくったけれど、今は三橋という抜群のコントロール(とムダに素直な性格/笑)を持った投手を得て、現に全勝させている。自分のリードは三橋にとってベストなんだ、という自信が、いつの間にか、オレはいつでも三橋にとっての絶対の存在でなければいけないんだ、というように変化してしまったんじゃないかな。
最初のころの三橋を思えば、たとえ「阿部君のリードがなきゃ オレは ひとつのアウトも取れない」のだとしても、「阿部君が取ってくれればいい投手になれる」という、自信と呼ぶにはささやかすぎるぐらいの自信が、どうしても三橋には必要だった。
でも、それももうそろそろ卒業する時期ですよね。

もう少し、阿部が早い時期に、もっと自然に自分の弱さを三橋に見せていたら、どうなってただろう。
受けとめる土壌の育ってない状態では、やっぱり逆効果だっただろうか。それとも…?
阿部だって、けっこう動揺しやすいほうだと思うし、1人でテンパッてた時に、その気持ちを三橋に吐露できてればかなり楽になれたのかもしれない。もしそうだったら、三橋は、今回田島に打ち明けられて「頼ってくれ!」と力強く言い切ったみたいに、阿部を受けとめようとちゃんとがんばったかもしれない。

そう考えてみれば、先月号の、阿部が無言で三橋の腕を握りしめてたのは、あれは阿部が三橋に見せた初めての“弱み”だったのかもしれないと思います。
深くうつむいて表情の見えない顔。握りしめてくる手の力。手足が細かく震えてるのは、痛みのためか、悔しさのためか、それとも…
「痛くないっすよ」と言った阿部に思わず「ホッ」とした三橋、このときはとっさに、自分の都合だけを考えてしまったんだろう。阿部が無事かどうか、よりもまず、自分の球を取ってくれる=いい投手でいられる、ということを。
でも、自分の腕を握りしめる──すがりついてくる阿部の手、腫れ上がった膝、震える手足、そういうのを目の当たりにして、三橋は阿部の声にならない悲鳴を感じ取ったのかもしれないな。
自分はものすごく不安だ。阿部君がいないのに、果たしてアウトが取れるのか。でも、阿部のほうがよりショックは大きいわけで。
モモカンに促されてグラウンドに戻ろうとした三橋を、阿部がとっさに掴んだのは、認めたくなかったからなのかもしれない。自分が退場してしまうということを。もうこの試合で三橋の球を取ることはできないのだということを。約束を守れなくなってしまったことを。オレ抜きで試合が成立してしまうことを。オレがいなくても三橋が投げられてしまうことを…
三橋は、それに対して「座って アイシングだよ」「アウトあと2つ 取ってくる よ」と言いました。
引導を渡すようなこのセリフは、でも、正真正銘、阿部のためですよね。
ちゃんとアウト取ってくるから、だから安心して休んでて、と。
阿部がいなきゃひとつのアウトもとれないと確信していた子が、明確に心に決めるんです。
「阿部君が いなくても アウトを」と。

「──マウンドにいれば みんなに声かけてもらえる」「これが“野球(ふつう)”なんだ っていう なら」「オレも 普通に 役に立つ1番(エース)にならなくちゃ」というモノローグの三橋……。
“普通に役に立つ1番”、もう大丈夫だよ、これからどんどんそうなってくよ、と声かけてやりたい。
「大事にされている」ではなくて「頼られている」と感じてホアホアしている三橋は、ちゃんとみんなと対等な存在だと思います。
「オレだけ不安なんじゃない 阿部君はチームの正捕手なんだ」、これも今までにない強い自覚ですよね。
これまでの三橋は、はっきりそう口に出してはいないけど、ってか言い方BLチックでアレだけど(笑)「阿部君はオレのもの」みたいに思ってたんじゃないかなあ。阿部という存在をとらえる時に、対自分、でしか考えてなかったと言うか。オレを勝たせてくれる人、以外の何ものでもなかったみたいな。
だから、阿部君がどうにかなってしまうかも!と心配した桐青戦の時、とっさに三橋は、チームの勝利よりも自分の都合を優先して、バックホーム躊躇したんですよね。
でも、今は、阿部が負傷して動揺するのは自分だけではないと知っている。それは、阿部が「チームの」捕手だから。
これまで、阿部を通してしかチームとつながっていなかったようなところのあった三橋が、今、チームのエースとして直に関わっている。
一生懸命大きな声出して、戸惑うチームを引っぱり上げようとしている。「ナイスセカン! ナイスファースト!」と声を上げた三橋に、考え込んでた田島がはっとして、三橋に駆け寄って、次のバッターへの対策を練って…という一連の流れ。
これは、すごいことです。
この試合、勝っても負けても、三橋の中にものすごいデカイもんを残していくんじゃないかなあ。

だからこそ、逆に、今後阿部と三橋との間に意識の相違が出てこないかどうか、ちょいと心配なところでもあります。
阿部君がいなくてもアウトを取れなきゃ、エースとしてダメなんだ、と気づいた三橋。
そんな三橋の変化を、阿部は上手に受けとめられるかな。
阿部の頭の中の三橋は、ひょっとして今でも「阿部君が取ってくれなきゃ オレはまたダメピーに戻っちゃう」とうつむいた、あの時の三橋のままだったりしないかな。

とりあえず今月号の阿部は、そんな私の心配を吹き飛ばすように、ちゃんと普通に平気そうでしたが。
「お前ら 打てよ! オレのために!」というのは、そうか阿部、ウケ狙いだったのか…(笑)
いや確かに、モノスゲーくっさいセリフだけど(笑)
阿部でも笑い取ろうとするんだ、と新鮮な驚きを感じました(阿部をなんだと思ってるのか私は)

やー…でも、これはやっぱりひぐちさんがすごいなーと思っちゃう。曲がりなりにもオリジナル書いてる身として。
この阿部のセリフは、ドラマの文法の中では、いわゆる“決めゼリフ”に当たるようなものでしょう。現実にはくさくてくさくて笑っちゃうんだけどさ、物語の中に出てくる場合、一般的にこの手のセリフは、最大に盛り上がるべきところで使われるもんじゃないですか?
(まーその場合、どっちかっつえば「オレの分まで打てよ!」とかになるのかもしれないけど…これだってかなりくさいけど/笑)
それを、あっさり、ギャグとして処理してくれちゃったひぐちさんのクールさに嫉妬しちゃいます。
彼女はことさらにクールを装おうとしてそうしたわけじゃなくて、きっと、彼女が普段見ているナマの男子高校生っていうのが、「オレのために打て」というセリフをギャグのつもりで言い、ギャグとして受けとめる子たちだったというだけの話なんでしょうけども。
それでいて、彼らはやっぱり、件の↑のセリフを真心ゆえに言い、真心とともに受けとめたりもしてるんだと思うんです。
阿部の無念な気持ちは本当だし、「お前の分までがんばる」というニシウラーゼの気持ちも本当だろうと、ごく自然に思える。
でも、じゃあその“真心”を真顔で口にできるかって言うと、それはやっぱハズカシくてできないですよね。
そういう、生身の人間っぽさを描くのがひぐちさんホントにうまいです。ちくしょー。その才能が私にも欲しい…!
 

──っと、予告どおりの長さになりましたね。私の読み、カンペキ(-_☆)
(そんな読み当たったところで)
それではいいかげんこのへんで。