【振りサイト再録】花井と田島について本気出して考えてみた・第2弾!

(「~第1弾!」からの続きです)
 

さてさて、第1弾では彼ら二人の過去を捏造で洗い出していったわけですが(笑)それをふまえて。
 

 
花井は、(おそらく)持ち前の負けず嫌いゆえに、田島に勝ちたいという感情を押さえ込もうとして、でも押さえ込めば押さえ込むほど無視できないほど大きく成長してしまって、持て余しぎみのその感情がときどき外に漏れるのを、田島は天性のカンのよさで見抜いてるんじゃないかな。
競い合うライバルがやっとできた。勝負を投げないで、自分に挑みかかってくるヤツがいた。もしかしたら、チーム内にそういう仲間がいるというのは田島にとって初めての経験で、負けん気をぶつけられればそれだけ彼も燃えて、とことんまで競っていく気マンマンだったんだろうなと思う。
そんなところ、田島は腕のケガで四番を降ろされ、替わって花井が四番に座ることになるわけですよ。

モモカンの、指導者としての意図はもちろんこの二人に明かされることはないわけで(阿部に明かすんだったら、まぁ、アリだなぁと思う…っつーか、あの子そういうの言われずとも気づいてそうで怖いよそんな高校一年生!/笑)、そうするとこの事態は彼らにとってどう映るか。
 

花井にとっては、崎玉戦開始前~前半で描かれてたとおり、「田島がたまたまケガしたから、二番手のオレに大役が転がり込んできた」みたいなカンジだったんでしょうね。
田島の腕が全治二週間、というのが明らかになって、シフトの変更が告げられて。その上で、三橋を温存するためにコールドを目指そうという方針も固まって。その時、花井はこんなかけ声をかけましたっけね。
「そのつもりで練習すっからな!」
…と。

うーん……いや私の考えすぎだって可能性もないわけじゃないんですけどね、花井は無意識にかあえてなのか、“つもり”って言葉を使ったんですよ。
これ、今まで通り田島が四番だったら、言葉がちょっと変わってたりとか、したんでしょうかね?
四番に座るのがオレという“代役”なのに、そんなことが可能なのか。田島ならできるかもしれない、けれどオレは? オレに田島と遜色ないだけの働きができるか?
──そんな気持ちが、この時、少し花井を逃げ腰にさせたんじゃないか、だから“つもり”っていう言葉になったんじゃないか、と考えるのは、さすがに穿ちすぎですかねひぐち先生?(;^_^A
 

一方、田島にとっては、これはまさしく大事件ですよ。
なんたって、(おそらく)初めて「四番を奪われた」んですから。
今までだって、別に田島が必ず四番をキープできるという保障なんかは無かったわけだけども(三橋みたいに、理事長の孫だったとかピッチャー経験者が彼だけだったとか、そういう特殊な状況じゃないからね…)、事実上、今現在、四番と言えば田島、田島と言えば四番っていうかんじの図式が成立しつつあるわけで。
これは、西浦の中で唯一“田島がスゴイ”という事実を素直に認めたがってない花井でさえも──いや、そんな花井だからこそよけいに、なのかもな。田島と四番争いをすることを、いつの間にかあきらめようとしている。

モモカン理論では、たぶんそれは二人ともにとってあまりよろしくない傾向だということで、しまい込まれてしまってる花井の牙を剥かせてやろうとしたわけですよね。
そうすることによって成長するのは、花井だけじゃなくて田島も同じ、っていうかむしろ、田島に及ぼす影響のほうがひょっとしてデカイのかもしれないな。

彼らはまだ1年生。今のうちから、「田島が四番で当たり前」っていう図式が定着しちゃうと、おそらく3年間変わることなくその図式が続いてくでしょうね。新人がもしどっさり入ったとしても、田島を押しのけるだけの素材の持ち主ってまずいなさそうだし。
そうすると、西浦での田島の状況は、中学時代の三橋の状況とおんなじになっちゃうんですよね。
まぁ、かたや誰もが認めるヒイキ、かたや誰もが認める天才、っていう違いはあるけども、要するに、与えられたポジションがガチであるってところは同じ。
これは、かわいそうです。努力する機会を奪われちゃうんだから。
人間、ふつう、最小の労力で最大の成果を得ようとするもんです。そこから工夫が生まれるんだから、それは決していけないことじゃないんだけど…もし、田島がいつでも必ず四番と決まってて、それはどんなことがあっても覆らないっていう状況がガチになっちゃったら、ふつうの人間は、上目指しませんよね。既得権限を守るための最低限の努力しかしなくなっちゃう。
それは本当にもったいない。

(……それ考えると、やっぱ、三橋ってものすごいんだなぁ。どうあっても自分がエースで居続けられるのに、さらに上を目指し続けたんだから)

ま、田島がそんな簡単にテングになるとは思いにくいですけどね。
ただねー、こういう、集団の中で働く心理的な力学って、個人の性格で抗いきれないことも多いと思うんですよね。たとえば、すごいマジメなやさしい子でも、周りみんなイジメをしてたらいつの間にか自分もそうなっちゃう、みたいな状態。
モモカンに“一番ファースト”を指名されたときの田島のリアクションは、あれ間違いなく“四番サード”以外ほとんどやったことなかった感じですよね(少なくとも、公式戦では)。
替えピッチャー作るって言われて泣いた三橋と、根本のとこ、同じ感じがする。執着の強さの度合いが。
醜いって言っちゃえばそうなのかもしれないけど、大事な感情ですよね。
 

そんなわけで、今回モモカンが花井にかけ続けたプレッシャーって、田島に対してかけたのでもあるんじゃないかなーと思うんです。
本来だったら、こんな小さなチーム内で、ポジション争いなんてほとんど不可能に近いはずのことで。それがたまたまこのチームの場合、もと四番だったなんて優秀な人材が二人もいて、競い合える環境にあるんだから、もうそれこそ「へんっ、四番なんていくらでも首すげ替えられんだよ!」ぐらいの気持ちでいてもらわないと、もったいないことこの上ない。

たぶん、この辺りが花井の自己評価の低さなんだろうな、花井は田島が自分のことをどういう目で見てるか、正確には察してなかったんじゃないかと思う。
田島は、花井が自分で考えてるよりずっと、花井のことをすごいヤツだと思ってますよね。
第1話、部活初日で「オレも四番だったけどぉ」と言った花井に、田島は一瞬だけどえらく攻撃的な視線を向けてましたが、あれはやっぱり対抗意識ですよね。しかも、“オレと違って”身体のデカい四番だから、相当ムキになってたことだろう。
その後、三星との試合で「一死満塁なのに1点しか入れらんなかった」と言っていた田島、これも今考えれば、もう一人の四番候補・花井への対抗意識があったと考えられませんかね?
そのうちしだいに、田島が四番、花井が五番と定着してきて、試合中でも田島は花井の出塁に「ナイバッチ!」と声かけたりしてましたけども(まぁ、これはチームプレイなら当然なんですけども)。
田島は、“五番バッター”の好プレイに対してならば、手放しで褒めたたえることができるんですよね。
五番バッターとしての働きだけじゃなく、花井は外野の守備もすばらしく、また主将として、よくチームをまとめあげている。そういうこと全部、田島は「花井はすげぇなぁ」と素直に思ってるんじゃないかと思うんですよ。

けれど、これが、“四番花井”に対してだと、どうなるか。
崎玉との試合中、長いことドツボだった花井が、ようやくヒットを放った(しかも2打点!)とき、確かに田島はほがらかに声をかけてましたけども。田島様やっぱカッコイイなぁ、などとも思いましたけども。
でも、きっと本音は試合後のやりとりのほうにあったんじゃないかなぁ。
「まあまあの四番だったな」と言ってた、あれは、半分以上悔しまぎれだったんじゃないかなーと思うんです。
「満足してんなよ」発言のときにも、つらつらと考えてたことなんですけど、田島は確かに自分の中に定めた基準というのがとても高くて、満足することを知らない。けれどその厳しさは、他人に対しては向けられないんですよね。こいつは二塁打打てなかった、こいつは捕れるはずの球を落とした、こいつはスタミナ持たなくて打たれた……そういうふうに、人のプレイにダメ出しする発想が、なさそうに見えるんですよ。
「まあまあの四番」というのも、だから、花井の活躍がイマイチだったということが言いたかったんじゃなくて、ただ、悔しかったんじゃないかな。
だって、本当だったら自分が座ってたはずの地位にですよ? 今回は花井が座って、そんでもって途中はどうあれ、ここぞというときにちゃんとヒットを打って決勝点挙げたわけなんだから、ひとまず上々の働きでしょう。そんなの、真正面から褒めるのはあまりにも悔しすぎる。
これが、五番バッターの働きならいい。でも、自分でない四番バッターがこんなヒーローみたいな活躍してて、それをノンキに褒める心境には、到底なれなかったんじゃないかと。
(実際、トップを目指すならこれぐらいの負けん気がないとダメだと思うしね…)

誰よりも相手を認めてる。だからこそ、素直には認めたくない。
二人とも、同じだったわけですよ。
それに気づけたってのが、今回の花井のいちばんの収穫だったんじゃないかな。
自分が田島に抱いてるのと同じぐらいの対抗意識を、田島も自分に対して抱いてた。いつの間にか勝手に、田島はヒーロー、オレはその代役、って決めつけてしまってたけど、実は最初から今までずっと、二人は対等だった。
あまりにもキツくて、投げ出そうとしていた勝負を、田島が真正面から吹っかけてきたわけですよね。
「そんなやすやすとオレに四番譲った気になってんじゃねーよ。お前のことライバルだと思ってるのがオレばっかじゃ、まるでオレバカみたいじゃんか!」
……なーんて、ね。
 

で、「アイツは誰と競うんだ?」の答えですけど、こりゃーもう……ニブいなぁ、梓!! と全力で突っ込みましたよ。オメーだっつーの! この辺り、本当に変なふうに認識甘いなぁ、花井って子はさ。
「背ェ高くてよかった~」の表情がなんとも言えないよ(笑)
もうここだけの話になっちゃいそうだけど、当初考えてた花井と田島(+三橋)のやりとり、こんなのでした。↓

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「オレがなんにも悩んでないとでも思ってんのかよ。ふざけんなよ! オレ、毎日牛乳3リットル飲んでんだぜ!?」
「は? ……3リットル?」
「……わかんねーならいいよ!!」

(走り去る田島)
(しばらくして、三橋がオドオドとこちらへやってくる)

「田島君……ホームラン、打ちたいから……」
「ホームラン?」
「お、お……オレも、だよ」
「へ? お前って、三橋が? ホームラン?」
「牛乳、あのオレもっ、毎日……オレ、榛名サンみたいになりたい、から。田島君と、いっしょに……」
(いつものことながらよく話のつながりがわからない。しかし、三橋が榛名みたく速い球を投げたくて、そのために大きな身体がほしいから牛乳を飲んでる、というところまでは何とか理解した。
では、田島は? ホームランを打ちたい田島、そのために身長を伸ばしたくて、牛乳を飲んでるということか?)
(さっきの田島の、自分に対する表情、怒鳴り声、あれはいったい…)

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まー、結局完全に後出しになっちゃったわけでして(;^_^A
ひとまず、ここに美しきライバル関係が名実ともに成立、ということで、この先がますます楽しみです。
やっぱねー、こういうの見てると、「ナンバーワンにならなくてもいい」って最初っから言っちゃっちゃーダメだよなぁと思う……というか、いや別に私『世界にひとつだけの花』嫌いじゃないですけども。念のため。
 
 

おお振りっていう物語は、こういうとこがとってもきれいですよね。
高い目標掲げて、みんなで団結して、認め合って、けれど満足せず、競い合って。
そういうのって、正しいんだ、美しいんだ、ってみんなわかってると思うんですよ。けれど、実際にはそういうふうに美しくがんばったり競ったりできるとは限らないってことも、経験上よくわかっちゃってるんですよ。
だから、つい、そういう美しいものに対しては斜に構えてみちゃったり、しょせん理想論なんだってうそぶいてみたりもして。
でも、たいていの人間って、ほんとうはその“理想論”が──きれいごとが、好きですよね。物語の中だからこそ、そういう美しい世界が見たいんですよ。そして、信じたい。

おお振りの魅力のひとつが、ツライ感情もごまかしなく描ききるリアルさだと思うんですが、そういう誰もが共感できるリアルさの果てに、ものすごくきれいな世界が広がっていて、だからこそよけいにココロに響くのかなぁと。
なんというか、オリンピックの聖火ランナーが炎のリレーをつないできて、最後に自分の魂に点火してってくれたような、そんな錯覚を(笑)覚えてしまいますというか。