あとでまたそれなりにまとめるつもりですが、とりあえず今は走り書き程度に宮崎吾郎監督『ゲド戦記』の感想を。
なんだかねー……うん、まあ確かに皆さんのおっしゃるとおりというか、ぶっちゃけて言ってかなり面白くなかった(なぁと私は思った)んですが。
ただ、どうしてだか私はこの作品を嫌いではない。ええ、そりゃもう確かに、面白い面白くない言う以前に、感情移入できなかったというか意味が分かんなかったというか……ううむ、さんざん言ってますけど(汗)
「ああ、不憫だなぁ」というのが、たぶん一番近い表現なのかも知れません。それはそれでえらく不遜な言い草ではありますが(爆)
何かに似てるなぁ、この感慨、としばらく考えていて、今ふっとひらめきました。これは、『ドラえもん』のアニメの二代目キャストに感じた気持ちと同じなんです。
っていうのはですね。アニメ『ドラえもん』を初代キャストで観て育った我々付近の世代にとってみれば、初代キャストさんたちって、絶対的な存在だと思うんですよ。そのキャストが入れ替わるという時点で、もう二代目キャストは“代役”としてしか見てもらえないじゃないですか、ほとんど。代役、ということは、つまり、どう頑張ったって“本物”になることはできないってことになるわけですよね?
私は、当時チラチラと目にした新キャストへの反応(おもにオールド・ファンの)に対して、そんなことをつらつらと思いましたし、かくいう私自身も、ほんの少し聞きかじっただけですけど「ううむ……」と思ってしまったことをここに正直に白状しますです。
少なくとも、私が「ううむ」と思ってしまったのは、「旧キャストと似ていなかった」からでして、じゃあ新キャストは旧キャストに似せた声を出さなきゃいけないのか、と言われたら、決してそんなことはないはずなんですよね。
でも、たぶん私も、同じように「ううむ」と思ってしまった私以外の人たちも、やっぱりドラえもんには反射的に大山のぶ代さんのあのドラ声を脳内で当ててしまうのだと思いますし、だとすれば、そうではない他のどんな声がドラえもんに当てられても、「ううむ」という感想は(少なくとも最初の反応として)決定づけられてしまっているのかな、と思うんです。
そうだとするなら、それってのは、努力をしている、していない以前の問題であって、頑張っている新キャストさんがたにとってみればえらく不憫で、理不尽な評価じゃないかなー……
──みたいなのと同じような感触を、この宮崎吾郎監督による『ゲド戦記』に感じてしまったわけなのです。
彼にのしかかっている影というのは、言うまでもなく、父宮崎駿であり、スタジオジブリであり、『ゲド戦記』という邦題を持つ原作であるのだと思います。3つもです。想像しただけで不憫です。
しかも、チラ聞きした限りでは、吾郎氏は駿氏が原作『ゲド戦記』に触発されて描いた『シュナの旅』の影響を受けている、ということでして……そうか、吾郎氏は、原作つきの作品を撮るためにまず全力でしなければならないはずの“原作と正面から向かい合う”ということよりもまず最初に、父親と向き合わなきゃならなかったのかなぁと……。
というか、原作『ゲド戦記』と対峙する過程で、もれなく親父やスタジオジブリがひっついてくるわけですよ。
宮崎駿の“二代目”であり、ル=グィン著作『ゲド戦記』の“トランスメディア”である、宮崎吾郎の『ゲド戦記』。
なんというか、戦う相手が多すぎるしデカすぎるよなぁ、と思ってしまいます。
もちろん、それと作品自体の出来不出来は直接に関連はしないはずだし、そもそも吾郎氏が自分で選んだことなんだから仕方ないんですけど、負わされることを宿命づけられたプレッシャーに、なんだか同情してしまいますというか。
テーマ(“見えぬものこそ。”っていうのがそうですよね?)と、提示されかかってた世界観との関連性が見えないとか、キャラクターのエピソードがあまりに描かれてなさすぎて感情移入しがたいとか、大事なテーマ全部セリフで語っちゃってるよとか、そういうのは全部、新人監督だったらやっちゃいがちな失敗だし、作ったのが宮崎吾郎でなかったら、もうちょっと批判の声もお手柔らかだったのかもしれない。絵と音楽はやっぱりきれいですし、声のキャスティングもよかったと思いますしね(…まぁ、手嶌葵のアテレコはちょっと除きますけど/苦笑)
面白かったか面白くなかったかと訊かれたら、やっぱり、面白くないほうに一票入れちゃうし、むしろ原作一気読みしてこの胸のモヤモヤをすっきりさせたい!という波が高まるような作品ではありましたが(第一話を遠い昔に読んだきりです)、宮崎吾郎が精一杯いろんな大きなものと戦った形跡は見えるので、次回作もきっと観ると思います。だからカントク、ヘコまずに頑張ってくださいね。(笑)
──というわけで、すっかり最後まで書ききってしまいましたが、以上が櫻井的・映画『ゲド戦記』評でございました。
ご静聴ありがとうございました!