【振りサイト再録】いいかげんクドイんですけど

下のほうで、三橋について「“野球のチームに所属”するためには、“マウンドにしがみつき続ける”以外に道がなかった」と書きましたが、コレにちょっと注釈。
三橋は、あくまで三橋の意識のなかでは、こんなややこしいこと考えてはいなかったんだと思う。
こんなこと悶々と考えてる時点で、ある意味、“自分の置かれた状況を人のせいにしてる”ことになっちゃうだろうから。
三橋っていう子は、徹頭徹尾、自分に降りかかるすべての“やりづらさ”、“居心地の悪さ”を、自分の招いた結果だと認識してたんだと思う。
だから、マウンドにしがみつき続けた彼の精神状況を、作品の外から私みたいなネチネチしたヤツがいろいろ妄想するけども、彼の認識ではただ単に「オレのワガママでみんなにイヤな思いさせた。オレはサイテーだ」以外の何ものでもなかったんだろうなと思う。

三橋も、三星時代のチームメイトも、みんな要するに“子供”だったんですよね。
自分で自分の居場所を決められない、あてがわれた場所以外で生きる力を持たない、無力な子供。
三橋がカケオチの末結ばれたカップルのもとに生まれてきたのは、彼が選んだことじゃない。
六畳一間のボロアパートで家族3人寄り添って暮らすド貧乏生活も、小2の秋で突然デカイ家に引っ越してギシギシ荘の仲間と別れるハメになったことも、三星の中等部に入学して突然超おぼっちゃま待遇されたことも、頼んでもいない(だろうなぁ)ヒイキでエースにされたのも。
みんなみんな、幼い三橋のあずかり知らない“オトナの事情”で勝手に決まったことだ。
三橋は、それに抵抗する術を持たなかった無力な子供だったんだよね。ホントのトコ。
(や、もちろん、無力な三橋がヒイキでエースにされてしまったことによって中学の野球部ライフを台無しにされたチームメイトも、めちゃめちゃ可哀想な無力な子供だったわけだけどさ)
三橋は、それを、“環境のせい”にしようと思えばいくらでもできたんだよ。
でも、三橋はあくまで「オレのせい」と言い張った。
1巻の冒頭で阿部が「ヒッデエ監督だな」と言ったのは、まったくもって当然の感想だと思う。うん、どう考えたってあれは監督がいちばん悪いだろうよ。
でも、三橋は「監督のせいじゃない」と言った。
三星っていうチームを遠く離れたんだから、もうあのチームメイトや監督の顔色をうかがわなくてもいいんだから、「そうだそうだ監督のせいだ、オレ別にヒイキしてくれって頼んでないのに」ぐらい思ってたってバチは当たらないと思うのに、三橋はそうじゃなかった。
あの子の、「オレのせい」っていう認識は、ホンモノだ。

三橋が野球やってなかったら、彼はこの世に果たしてまだ生存してたのだろうか、などと、とんでもなく恐ろしいことを時々考えるんですが。(ぶるぶる)
彼は、引きこもったり、自分の肉体に刃物を当てたり、虚空に向かってダイブしたりするような衝動でもって、ボールを投げていたのかなぁ…
小さいころから、人一倍、周りのオトナの事情で振り回されてきた三橋。住む場所も、友達関係も、自分への待遇も。
どこか新しい場所に行くたび、はじめての人に出会うたび、ここで自分は受け容れてもらえるのかという不安におののいて。だからといって、過ごし慣れた場所、接し慣れた人たちと別れたくないから自分の居場所は自分で決める、ということもできなかったんだよね。子供だから。

あずかり知らないところで勝手に定義されてゆく“自分”という存在。
それを、ひどく薄いものに感じて、やりきれない気分になったのかな。
でも、自分はこうして投げている。
自分という存在がどんなに希薄でも、投げ続けることによって痛む指先とか、熱を持って腫れる肩とかは、確かなものだ。痛い、熱いという感覚が、自分を希薄でないものにしてくれる。
彼は、それをこそ、“選んだ”んじゃないかなぁ。

端から見ていかに彼が“オトナの事情に巻き込まれた無力な子供”なのであったとしても、彼は彼に与えられた、ごく少ない、申し訳程度の選択肢の中から、“投げ続ける”ことを確かに選んだ。
おそらく、これで初めて、彼は自分の居場所を自分で“選んだ”んだろうな。
そのせいでチームが負けて、雰囲気も悪くなって、チームメイトの部活ライフを台無しにして、何よりも自分の性格があんなにちっちゃくうずくまっちゃって……周りもいい迷惑だったろうけど自分だって辛かったろう。
それでも、“これはオレの選んだことだ”とかたくなに思ったんだ。
これがオレの選んだ道だ、だから、どんなに傍迷惑だろうが醜かろうが、その醜さや痛みこそが“オレ”だ。だからどうあっても譲れないし消し去りたくもない……と。
思い余って切りつけてしまった自分の身体の、その傷痕をいとおしむように。

……か、考えすぎかな、という気がちょっとするんですけどね;
ただ、『ゆくところ』や『ヤサシイワタシ』を描いた作者さんだから、ここまで突っ走った私のダーク妄想もどーんと受け止めてくれそうな雰囲気がするんですよね~。
『おお振り』の、爽やかで明るいと見せかけて(って、確かにホントに爽やかで明るいんですけども)、時々ふっと差すほの暗い部分に心臓を掴まれてしまいます。

あ、もちろん、三橋が純粋に「投げるの大好き!」っていうのは大前提ね。
ここんとこの記述で、なんかあまりにもその点を軽視した書きかたしてきちゃったように思えたので、いちおう、念のため。