【第7章 荒れ果てた原風景】
第2幕 男に誘導されるままに、リューズは水煙の中を急いでゆく。 いやむしろ、引きずられるようにして、と言うべきか。導く男の足どりは大股で速い。節くれ立った手も大きく、少女の頼りない手首など楽々とその中におさまってしまう。 (男のひとだ、大人の) 感慨が稲妻のように閃き、リューズの脚は不意に竦む。前を行くクラウスが振り向いた。目を逸らして、彼女は再び走り出した。しっかりしろ、と自分の脚を叱りつける。大人の男だからどうだというんだ、あたし。怖いのか? そんな、馬鹿な。 今はそれどころではないのだ。 何しろ、〈牢獄の塔〉から逃げ出してきたのだ。今まさに近衛兵が彼らを追跡している最中である。 男に与えられた罪名は、王女拉致および脱獄。 少女に与えられた罪名は、脱獄の手引。 大それたこれらの罪名に相応しい罰は、やはり大それたものなのだろうか。おとなしく刑に服する気がない以上、ふたりは追っ手を巻くまでどこまでも逃げなければならない。 クラウスに手を握られたまま、リューズは軽く地面を蹴ってみた。浮遊感はない。半ば以上予想してはいたことだが、実証されてしまうと軽い絶望感を覚える。雨音にかき消されてしまうほどの小さな溜め息が、彼女の口から漏れた。 (……やっぱり、気のせいだったのかな) ほとんど衝動的に、男の手を取っていた。間近に迫る追っ手から自分が確実にのがれるための方法など、吟味するまでもなく、あの緊迫した状況下であってさえも明白だった。他のすべはどう考えてもあり得なかった。 しかし、リューズの取った行動は、その「すべ」とはまったく逆だった。 何故男の手など取ろうと思ったのか。手を取った状態で跳べるかもしれないなどと本気で思ったのか。そうでなければ、心中でもするつもりだったのか。 ……どれも、同じぐらい考えられない。 そもそも、自分の持つ魔法について、彼女の知らないことは何かと多いのだった。 たとえば。落下している最中にこの手を離したらどうなるだろう、と、ほんの一瞬リューズは思った。その瞬間から彼女の身体にだけ浮力が働くのだろうか。それとも、ひとたび他人の手を取って飛び降りた時点で、どんな試みも無効だろうか。 しかし、試してみることは叶わなかった。落下し始めて程なくして、リューズの意識はどこか遠くへ飛び去ってしまったので。 そう、気を失ってしまったのだった。あろうことか。 頬を切る風の感触に、全身の神経が悲鳴を上げた。眼下に広がる景色も、見ようという気さえ起こらなかった。ただ、固く瞼を閉ざしていた。今にも喉を引き裂いて飛び出しそうな叫び声を、歯を食いしばって必死で耐えていた。それすらもじきに実感が薄くなり、あっという間に意識は漂白されてゆき…… (──たすけて、たすけて、たすけて──……) そして、気がついた時には、男と折り重なって宮殿の庭に倒れ伏していたのだった。 リューズとクラウスはほとんど一言も口を聞かないまま、宮殿の敷地を抜け出した。クラウスはよほど勝手を知っているのか、迷いをまったく感じさせない足どりでリューズの手を引いてゆく。 ──この、状況が。 学院の教官でもなければ実家の祖父でもない男性が自分の手を掴んでいるという、この状況が、何とも名状しがたい居心地の悪さをリューズに覚えさせる。 このひとは誰だ。自分と同じ瞳の色を持つ、このひとは誰だ。リューズは内心で何度も問うた。正解を注意深く避けながら、何度も何度も問い続けた。答えが闇の中である限りにおいて、この問いは彼女のすがりつく藁《わら》であり続けることができた。 前を行く男の背中にリューズは目をやり、すぐに逸らした。 ……雨は、まったく止む気配がない。 リューズの髪を濡らし、服に染み込み、道のくぼみに濁った水溜まりをこしらえ、さらに持ちこたえられずにそれらから溢れ出した水が細いいくつもの川をかたちづくるほどになっても、まだ雨は止むことを知らない。 じっとりと濡れた髪が頬に心地悪く、リューズは大きく頭を一振りした。心なしかめまいを覚える。治りかけていた風邪がぶり返したのだろうか。充分に考えられることだ。 (いつまで走り続けていなきゃならないんだろう) リューズの心に、今更ながら浮かんだ疑問はそれだった。 それに答えるのは一見簡単だった。追ってくる近衛兵たちを完全に巻くまで、だ。だがそれならば、どこへ逃げれば「完全に巻くこと」が可能だというのか。青の大公の命令とあらば、地の果てまでも探し続けるだろう。彼らはそういう集団なのだから。 アメリアの拉致。これがどれほどの大事か、分かっていなかったというのだろうか、この男は。 大公女殿下の拉致。どんな理由があろうとも、必ずやそれは、公国を挙げて追跡され、断罪されるべき行いだ。リューズにだって分かる。ましてや被害者はアメリア姫だ。他ならぬ、アメリア姫! 古代魔法王国期における〈最も貴き神の嬰児〉の名をミドルネームに冠した、〈青の公国〉に雨の恵みをもたらす、当代きっての魔法使い、アメリア・ナイフィアを。 ──何だって、拉致なんか企てたのか、この男は。 そもそも、クラウスなぞがどうしてアメリア姫に接触できたのだろうか。姫を拉致できたということは、クラウスは宮殿関連の建物の中に入り込んだということだ。あたしみたいに、首尾良く不法侵入したのだろうか。 いや待てよ、とリューズは呟く。それはない。 院長先生は、確かこんなことを言ってなかったか? (……至らない私たちの代わりに、ある人物が術を中断させた。彼こそはひびの入った結界晶を元に戻していた術者だったのだがね、それを途中でやめて、混乱の隙にアメリア殿下を連れ出して逃げた) (彼の名前は、クラウス・オークル) (クラウス・オークル殿と) その現場にいたのだと、院長先生は言う。院長先生とヒスト先生と大公とその他いろいろな魔術師と……とにかく、そういった「お歴々」と一緒に、クラウスはいた。 何のために? そう、アメリア姫を「復活」させるとやらいう、奇っ怪な術を執り行うために。 ならば、何だって、その術にクラウスなどが同席していたのか。よもやまさか、はなからアメリア姫を拉致するために? それはないと思いたいが……どちらにしても、何故、クラウスなどにそんな重大な話が舞い込んだというのか。 ひとたび沸き上がった疑問は、次の疑問を呼び起こし、とどまるところを知らない。 そして。リューズの中で、それらすべての疑問は、結局のところ、たったひとつの疑問に集約されるのだ。 どうして、クラウスは、アメリア姫の手を取ったのか。 そう、すべてはそれに尽きる。 クラウスは、究極の魔法時計の材料を探すため、どこか遠くへ旅に出たのではなかったのか。それがいつの間に、ここへ戻ってきたのだろう。戻ってきたのに、家になんの連絡もしなかったのか。それでいて、アメリア姫を連れ出したのだ。あたしやおじいちゃんにかける言葉も惜しんで、アメリア姫の手を取ったのだ。 (──どうして) リューズは渾身の力を込めて、クラウスの手をふりほどいた。 「どうして、どうして、どうして!」 ……こんな、手など。 「いらないんだよ!」 あたしから背を向けて逃げたのに、罪を犯してまでアメリア姫を連れ出すことはできる、こんな手など。 「あんたの手なんて、いらないんだよ、今更! もうとっくに諦めたんだよ! 気紛れに目の前に現れて、たやすくあたしに触るな!」 「待ってくれ、その……きみ。あの時は」 「もういい!」 だが、それでも。 「もういい、聞きたくない。あたしには関係ない!」 怒鳴り散らすつもりなどなかったのだ。あくまで、意識の上では。 自分でもぎょっとするほどにとげとげしい声。その瞬間、鞭で打たれた者のようにきつく寄せられるクラウスの眉根。人気のない往来。遠雷。それらすべてがもたらす重圧に、リューズは耐えかねた。 きびすを返して駆け出すリューズの背中に、また例の、灼けるような感覚が襲いかかる。痛くない、痛くない、あたしの背中は鉄の板。彼女は口の中で繰り返し唱えた。全力疾走であった。振り切って逃げるのだ。この道のどこまでも。 ──クラウスの、腕の届かぬところまで。視界に入らぬところまで。 固く決め込んだリューズの逃避行は、しかしいとも簡単に終わりを告げた。 足音が、聞こえてこないのだ、後ろから。 それでもリューズは振り返らなかった。追ってこないなら、好都合だ。このまま背を向けて逃げてやる。あの時の、この人のように。リューズの意志は充分に固いはずだった。だが一度気になってしまった背後はどうしようもなかった。彼女の背中は、もはやそれ自体が大きな耳であった。 リューズは聞き分けた。聞き分けてしまった。この叩きつける雨音の隙間から、たったひとつの音を。 脚が、止まる。硬直して、言うことを聞かない。どんなに叱咤しても無駄であった。リューズはもう走ることができなかった。 何故ならば、聞こえてしまったのだ。 それは……ほんの小さな呻き声。聞き間違えることなどあろうはずもない、クラウス・オークルの呻き声。 「な……何?」 緩慢に、リューズは振り向いた。そしてすぐに後悔した。 クラウスは地面にうずくまっていた。泥で汚れるのも構わずに、水浸しの地面に座り込んで、足首を押さえてうずくまっているのだった。 白々しい、とリューズは思った──否。思おうとしたが失敗した。 リューズはゆっくりとクラウスに近寄った。苦痛に歪む彼の表情は、演技などではあり得なかった。だが本当は、表情など見なくとも分かっていたのだ。これが演技でないことなど。リューズの頭は一瞬で答えをはじき出していた。それより他に、考えられない。 だから。 「……足? どうしたの?」 理由とて、尋ねるまでもなかった。それでも尋ねたのは、ひとえに保身。認めてしまうのが怖かったからに他ならない。 (さっきの、あの) 気付かないふりをしたかったのだ。あるいは、否定してほしかったのだ。 「何でも、ない……」 クラウスはぎこちない笑みを貼り付けた顔を上げる。彼の返事はこの時のリューズにとって申し分ないもののはずだった。だが心は勝手に沈黙の奥の言葉を聞き取っていた。 (あの、ベランダから飛び降りた時の) 「……大丈夫、心配ないから……」 「全然大丈夫に見えないよ? 何白々しい嘘ついてんのさ」 リューズは周囲を見回し、雨の煙幕に霞む屋根らしきものを見つけた。視界は白く濁り、それがここから近いのか遠いのかさえ判然としないが、他に雨をしのげそうなものがさっぱり見当たらないので、仕方がない。 「あそこまで、歩ける?」 無理に決まってると思いつつも、リューズは敢えて問うた。クラウスは少し考え、やがて力無くうなずく。 「……多分、何とか」 一人で歩くのはきついということか……。リューズは、クラウスのほうに伸ばしかけた腕をふと止めた。伸ばしてどうするというのだ。かける言葉のあてすらないのに。 行き場のない腕を持て余していると、大きなくしゃみが飛び出した。一瞬、視界が真っ白になる。本格的に頭が重い。 「そういえば、きみは病み上がりだったんだね。雨宿りしなさい、早く」 呼びかけるクラウスの、吐息混じりの声は、何の含みも宿していないように思え──その含みのなさこそが、まさにリューズの心をえぐるこの上ない刃物だった。 リューズはクラウスの肩に腕をかけた。 「遠いかもしんないけど、腹くくっといて」 ……選択の余地は、ないも同然だった。 ***
じれったくなるほどの速度で進み、ずぶ濡れになりながら二人がようやくたどり着いた屋根の下は、さびれた停車場だった。五、六人が待ち合えるかどうかというほどの小さなもので、風に煽られた雨粒は真ん中にまで容赦なく降りかかってくるが、何もないよりははるかにましである。 ……さて、ここから果たしてどうしたものか。 クラウスをベンチに掛けさせ、そこから微妙な距離を置いて自分も腰を下ろし、リューズは途方に暮れていた。 頭はどんどん重さを増しているようだ。額に手を当ててみる。身体中の感覚が鈍いが、もしかしたら熱いのかもしれない。横目でクラウスの様子を見やると、彼はベンチの上に乗せた足を両腕で抱え込み、深くうつむいている。目撃されないうちに、リューズは額から手を離した。 (結局あたしがしたことは何だったんだろう、な) 彼女は自嘲気味に唇の端をつり上げる。 嵐の中を走って、跳んで、牢獄にまで忍び込んで囚人を連れ出して、追っ手を振り切って塔の中腹から地上へ一気に脱出して。そうまでして、結果がこれか。 (このひとの、足) 腫れ上がって不自然に太くなっているのが、ズボンの上からですら見て取れるクラウスの足は、ついさっきまで力強く地面を蹴っていたのではなかったか。 そうだ。この人は、ベランダから落ちた後、今さっきまでリューズの手を引いて何ごともなく走っていた。それが、突然、うずくまってしまったのだ。男の手をふりほどいたリューズの、背中の向こうで。 恐らくは、急に駆け出した彼女を追おうとした時に、足首をひねってしまったか……。 (──いや。違う) リューズは思い返す。そうだったか? クラウスの足どりは本当に、何ひとつの異常もない軽やかなものだったか? わずかな徴し《しるし》のひとつもなかったか? それは少し注意を向けていさえすれば容易に気付くような、判りやすいものではなかったか? たとえば、そう。 (彼女の目の前の背中が、その一歩ごとに大きく左右に振れていた、とかいうような) (もしくは、走りながらたびたび振り返る彼の眉間に、かすかな皺が寄せられていたり) (または、病み上がりのリューズよりも、荒い呼吸を繰り返していたり) ありありと、脳裏に再現されてゆく。 そして思い起こせば思い起こすほど、正解は明らかになってゆく。否定しようのない事実が露わになってゆく。最初から、彼の足は負傷していたのだ。 あの、ベランダから飛び降りた時に。 (……ベランダのはるか下から吹き上げる強烈な風……) ぐ、と、喉が鳴った。高いところがあれほど怖いと感じたことは、おそらく生まれて初めてであった。クラウスとともには跳べないということに思い当たってしまったからには、あのベランダから飛び降りるのは自殺行為以外の何ものとも思えなかったのだ。 しかし、本当は、それだけではなかった。 リューズは、あの塔に潜入した時から、既に自分の目の前に現れるものすべてに怯え、過ぎた警戒心を募らせていたのではなかったか。あるいはそれは、都の時計塔のふもとで、一人の男とほんの数言の言葉を交わした時から始まっていたのかもしれない。どちらにせよ、彼女は過敏だった。 そのくせ、失念していたのだ。自分の魔法に定められた制限を。そして、見逃していたのだ。目の前の男の、足どりの異変を。 うつむいていた男は、抱え込んだ自分の足首から目を離し、心なしか充血した目を向けてかすかに笑った。 リューズはやにわに立ち上がった。 「……あ、あたし……!」 黙っていることができない。じっとしていることができない。なぜならあれは、あたしがやったことだから。 「おと……おじさんの、怪我。これって」 クラウスは、リューズの言葉を遮るようにかぶりを振った。 「ああ、大したことないだろ。ちょっとだけ休ませてくれ、そうしたらすぐに……」 「嘘つくな!!」 思い余って足を踏み鳴らすと、水溜まりが大きく飛沫を散らした。既にこれだけ濡れているのだ、今更どうということもない。服は染みだらけ、心も、染みだらけ。お似合いというものだ。 「正直に言いなよ、痛くて痛くて死にそうだって。思いっきり口汚く罵ってみなよ、全部全部何もかもがお前のせいだって! 分かってるよそんなこと、もう子供じゃないんだから、みんなあたしがいけないんだってことぐらい。そんな風にかばわれたって迷惑。はっきり言って、嫌味にしか聞こえない!」 「そんな……つもりじゃ、ないんだけどな」 首を傾げる男は、つくりものでない困惑の表情を浮かべている。いい気味だ、とリューズは思った。そしてそんなことを思う自分の心に嫌気がさした。 クラウスは自分の頭の中の分厚い書物を吟味しているかのように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。 「これはもう、額面どおりに受け取ってくれとしか言えないんだが……俺は、感謝してるよ。だって冷静に考えてみれば、あの高さから飛び降りて、でもってここまで歩いてくることができたってこと自体が、既に、奇跡的なんだ。普通なら、相当に運が良くても足が立たないほどの重傷か、ちょっと落ち方悪ければ死んでたって不思議じゃないだろう。だから、きみには、感謝してるんだ」 何を──言い出そうというのだ、この男は。 男の顔に今浮かぶのは、先ほどのものよりもきっぱりとした笑み。クラウスは、リューズをまっすぐに捉えて、彼女のみを視界に据えて微笑んでいた。 「きみの魔法はね、役に立ったよ、充分に。俺ときみの命を救った。人二人の命をだぞ。すばらしいじゃないか」 「適当な慰め方するなよ!」 感謝だって? 笑わせる。後から落ちてきたあたしのせいで足首おかしくしておいて、よくそんなことが言えるものだ。しかも言うに事欠いて、役に立ったなどと! 「意味ないんだよ! そんなんじゃ、話になんないんだよ! あたしの魔法は高く跳べて、高いところから軽々と飛び降りることができるもので……だから、お父さんがそんな足してるんじゃ、あたしの魔法なんて全然駄目じゃん。無傷じゃなきゃ、全然、意味ないじゃん!」 結局、あたしの魔法は、あらゆる意味で使えないのだ。使えない魔法をしか持っていないあたしも、やっぱり、使えない無駄な人間なのだ。 リューズの喉から、乾いた笑い声がこぼれた。目からは、生温い滴がこぼれた。どこもかしこも雨に濡れて、服は泥の染みだらけで、けたけたと笑いながら鼻をすすり上げている自分の姿は、さぞかし惨めだろうと思った。 「……だから、あたし……いまだに時計の〈お告げ〉も聞けてなくて……」 思い出してしまった。厭なことを。 ──時計の〈お告げ〉。 オークル魔法時計工房に代々伝わる、大きな古時計は、一世代ごとにオークル家の中のひとりの人間の名を呼ぶのだ。声なき声で、頭の奥に直接響くような深い声で、おごそかに呼ぶのだ。呼ばれた者は、すなわち、次代の工房主。それが慣わしだった。 オークル時計工房の主は、古時計の告げるままに。 時を操る魔法を持たない、それでいて、唯一持って生まれた跳躍魔法も、肝心な時に何の役にも立たない──そんな人間が、工房主として相応しいはずがあるだろうか? 「リュ……っと、きみ。実はな、あの時計の声ってのは」 リューズはクラウスに背を向け、耳を塞いだ。これ以上のお為ごかしは聞きたくなかった。かと言って、現実を叩きつけられるのも辛すぎる気がした。要するに、もうどんな言葉も聞きたくなかったのだ。 黙っていてほしい。このひとのなかに、あたしに対する愛情とかいうものが欠片でもあるのなら、どうか何も言わないでいてほしい。 だから、この時現れた人影はリューズにとって救いの手であったかもしれない。 「リューズ・オークル、こんなところに居ったのか。探したぞ」
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