1.時代背景 |
ここではない世界の、現代より若干過去を思わせる時代。
半世紀ほど前にはちょうど「帝国主義時代」のまっただ中であった。 世界はいくつかの大国が睨み合って一触即発。どの国も、自国が領土、産業、軍事力ともに世界一であれと競っている…。
そんな折、突然の巨大地震が世界を襲う。たったの一揺れ。しかし世界中を揺らした常識外れの地震が過ぎてみれば、世界大戦がひとつ起こったほどの壊滅状態を呈していた。
各国は早期復興を争った結果、地方の復興を放棄することとなる。都市部復興にしのぎを削った各国は、復興が済むと、そのまま壊滅前に引き続き国力増強にしのぎを削り出す。 内にクーデターの萌芽を、外に侵略の危機をはらみながら。
そして舞台となる世界は、「音叉鋼」を用いた新技術によって大きく動こうとしている…。
都会には何でもあるが、田舎には何もない。
都会にあって田舎にない、最たるものは「情報」であろう。辺境に住む人々は、復興後の都会の光景──壊滅したまま放置された歴史ある街並みと、それに全く調和せずに乱立する鉄筋のビルディング──などを知る術は、直接行って目にする以外、ほとんど皆無と言ってよい。
放置された旧市街は、物乞いやごろつきのたまり場と化している。ごく限られた一部の大都市のみ治安が良いが、他は夜など男性でも1人で歩けないほど危険。すれ違う者皆通 り魔と思え、といった街も決して少なくない。
街にはギャングやマフィア、海には海賊が横行。国の命を受けた治安維持部隊はあるが、彼らを完全に押さえ付けることはできずにいる。彼らの暗躍により経済が潤っているという面 もまた見逃せないため、国は決して彼らを根絶やしにしないだろうとも言われている。
国により事情が異なるが、総じて平等な社会ではない。それは身分というより、資産力によって振り分けられる暴力的な「階級」である。
学制はほぼ現代と同じ。ただし、高等学校へ進む者はさほど多くなく、大学に至っては余程の学問好きか、家の体面 を重んじる上流階級の子息ぐらいしか通わない。圧倒的多数の少年少女は、中学を卒業すると同時に勤めに出るか、家業を手伝うのである。
2.諸国 |
物語には、3つの大国と1つの新興国、2つの旧大国が登場する。
・ドリス国
5世紀もの重々しい大帝国としての歴史を持つ。
絶対主義からの脱却は遅かったが、もっとも早期に近代化の幕を開けた国。
正式名称は「ドリス王国」。現在も王室を認め、法律も王の名のもとに発布される。しかし実態は、片手で数えることができる数の大企業が政治・経済の実権をほとんど握っていると言っても過言ではない。
紳士的であることを重んじる国民性で、国際的にも比較的過激ではないが、軍隊の強さは屈指。
戦乱の絶えないヒスリンド地方からの難民の受け入れに消極的だったという保守的な一面 も持ち合わせる。
・ブラーダネスタ国
1世紀ほど前に、失業者や戦争による移民を受け入れてのし上がった大国。それ以前にも移民は存在したが数少なく(海を渡る必要性があるためか)、市街地を離れると先住民のみの集落が点在していた。
正式名称は「ブラーダネスタ共和国」。国民の中から選出された大統領が、かなり大きな権限を持ち行政に当たる。ドリスに匹敵するほどの大企業が存在するが、それらですら吸収不可能なブラックマーケットもまた存在し、裏の売人の坩堝と化している。
来る者を拒まない国柄。商人にとっては楽園のような地だが、治安の悪さは世界でもトップクラス。軍事力というよりはむしろ経済力で世界を動かす国である。
・ランバード国
ドリスと同じ大陸にあり、度重なるかつてのドリス帝国の侵略にも領土を守り抜いた国である。近代化の波に的確に乗り、学問の分野では世界をリードする技術大国。
正式名称は「ランバード共和国」。国民の中から選出される議員の中から首相が決定し、首相を中心に行政がなされる。ドリスやブラーダネスタのような大企業はなく、すべての国民が平等であるという建前が掲げられている。
ランバードを語る際、ランバード中央学院を避けて通ることはできない。設備、教師の層ともに最先端を行くと言われ、学問を志す人間のメッカである。このランバード中央学院にゆかりのある議員も多い。
・トーナンド国
ヒスリンド地方の戦乱の隙に独立した、比較的新興国。
長い被制圧の歴史を持つトーナンド民族によって構成される。正式名称は「トーナンド人民共和国」。革命の余波がまだ収まっておらず、現在のところは革命の主要メンバーから1人の総帥を推し、彼が主に政治を執っている。
トーナンド人によるトーナンド人のための国家、をスローガンに掲げており、資産の多寡による階級社会を否定している。一方で非トーナンド人を蔑視する傾向がある。近年では、総帥の独裁的体制及び諸外国への侵攻の気配が見られ、周辺諸国から警戒されている。
・ヒッソス帝国、リーンダイル帝国
古代史に語られる、聖地をめぐる争いを初めとし、現在に至るまで歴史的に仲の悪い2国。ヒスリンドという地名はこの2つの国名を合わせて縮めたものだが、彼ら自身はこの地名を嫌っている。
古式ゆかしい文化を未だ守る。近代化に乗り遅れたという言い方もでき、かつてこの地方の勢力を二分した大帝国は、「辺境の後進国」という扱いをされることを余儀なくされている。
自らが征服してきたトーナンド民族の独立を止められず、加えて内には財政難、外には植民地化の危機をはらんでいる。ちなみに四半世紀ほど前に、リーンダイル皇室がドリス王国の一大企業に資金融資を受けたことにより、諸国は様子を窺いながら今に至っている。
3.文化・技術 |
帝国主義と呼ばれる時代より数十年下ってはいるが、世界的な壊滅状態からの復興に時間を要したため、現代ほどの技術は存在していない。
移動手段としては電車、自動車が挙げられる。ただし、自動車は一時期より手に入りやすくなったとはいえ、「一家に一台」までは至らない。また、電車の路線は都市部しか網羅しておらず、大陸を横断するような長距離の移動には未だに蒸気機関車が活躍していたりする。地方では馬車がまだまだ健在。最近では乗用というよりは運搬用として、トラックの走る姿も見られる。
電話はあるが、100パーセント普及はしていない。都市部の家庭にはあるが、地方では法人や官庁が回線を持つ程度である。携帯電話はまだ発明されず。一方、郵便制度は世界的に確立している(治安が悪いため、届かないことも多いが)。速さを求めるなら電報も主流と言える。
人々は主に新聞やラジオで情報を手に入れる。テレビは都市部の住民にしか与えられていなく、それでもカラーテレビを持つ家庭は、自家用車を持つ家庭より少ない。新聞屋が存在しなかったり、ラジオ電波を受信できない地域も少なくない。地方では、情報の流通 という面では壊滅前の方が恵まれていたとすら言えるかも知れない。
反面、かつて農業資本家によって搾取されていた地方の農家は、壊滅によって自由を手に入れた。壊滅の影響で、経営を縮小せざるをえなかったためである。小作農だった農家はほぼすべて自作農となった。同時に、専業農家が減ったのも事実で、男性が出稼ぎに出るパターンが増えている。
コンピュータはごく一部の大学の研究室などにはある。それも、「単なる巨大な電子演算機」の域からそう出てはいない。そういった場所にはワープロもある。一般 的にはタイプライターも現役。もちろん、現代のようなパソコンは存在しない。
都市部にはスーパーマーケットのようなものはあるが、コンビニエンスストアはないと思われる。
音源は専らレコード。録音手段はカセットテープである。CDは発明されていない。電子楽器はミュージシャンの垂涎の的。
4.音叉鋼 |
世界的規模で起こった謎の地震がきっかけで、音叉鋼という物質の存在が明らかになり、以後各国で競って研究が進められている。
世界でもっとも大規模な鉱脈がヒスリンド地方にあると言われており、あらゆる国がヒッソス及びリーンダイルの領土を欲しがっている。
音叉鋼は不可聴域の特殊な音波を発し、やみくもに刺激を与えると音波に当てられて副作用を起こすため、扱いにくい物質であると言える。しかし、その音波は遠く離れた音叉鋼同士においても共鳴し合うという性質を持つことがこれまでの研究で分かっている。この性質を応用し、全世界的な通 信・伝達手段を発明するべく試行錯誤が重ねられている。成功すれば新聞より速く、ラジオより良質な音で、電話よりコストパフォーマンスの高い通 信伝達システムが完成すると言われる。
また、最新の研究では、音叉鋼は音波のみでなく脳波も共鳴させるという仮説が立てられており、学会の熱い注目を集めている。
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